長引くパンデミックにより人々の外出や移動への抵抗感が高まる中、鉄道各社には混雑緩和への抜本的な取り組みが求められている。そうした中、JR電鉄が運用を開始したある画期的な運行システムに注目が集まっている。都心を環状に走行する山手線の車両を一周途切れなく連結して運行する「山手線一周連結運行」だ。
前例のない画期的な運行システム
数分おきに停車する車両を待って乗り込む従来のシステムと異なり、山手線一周連結運行では車両が常時駅のホームを通過している状態となるため、乗客はいつでも好きな時に飛び乗ったり飛び降りたりできる。車両を停止させずに乗客が乗り降りできるようにするため、この分野での膨大なノウハウを持つインド国営鉄道の協力を仰ぎ、システムを完成させた。
JR電鉄では新システムの導入により混雑の大幅な緩和が見込めるとしている。加えて運転士などの人員削減やダイヤ管理が不要になるなど、運用面でも多くのメリットがあるという。
実際に山手線一周連結運行が開始されてから半年が経過した。混雑は本当に緩和されたのだろうか。朝の通勤時間帯、JR電鉄新宿駅の様子を取材した。
様変わりする通勤風景
朝の駅は人で溢れており、以前とあまり変わらないように見えた。どの路線のホームも乗降客でごった返している。だが山手線のホームだけは明らかに様子が違っていた。人はまばらで、閑散としたホームを車両が途切れる事なく延々と通り過ぎて行く。
サラリーマン風の人達が勢いよく助走をつけ、次々と山手線に飛び乗って行く。車両のドアはホーム通過中には常時開いているのでタイミング良く飛び乗り、降車駅に着いたら飛び降りる。待ち時間はゼロ、ホームに人が溜まり密になる心配もない。また以前と比べて車両の数も大幅に増えている。そのため乗客が分散され、大勢の利用者がいるにも関わらず車内はガラガラだ。密にならずに移動できるのは何より有難い。
しばらくホームに立って見ていると、飛び降りた乗客が着地したとたん電車の勢いそのままに猛ダッシュで私の方へと向かって来た。驚いて反射的に押しのけると、彼はつんのめりながら再び電車の方へと向きを変え、倒れ込むように電車にしがみ付くとそのまま品川方面へと走り去ってしまった。
時折り彼のように乗り損ねた人が電車にしがみ付いたまま通り過ぎて行くが、次の駅で飛び降りれば済むので大した問題ではないだろう。
突然、一人の老人が物凄い勢いで転がってきて私の足元で止まった。よろよろと起き上がる老人に手を貸しながら話を聞くと、乗る電車を間違えた事に気づき慌てて飛び降りたのだと言う。早く気付いて何よりでしたねと言う私に、老人は「こんな所に来てはいかん。命が惜しければな」と言い残し、人混みへと消えて行った。
移動のストレスは過去の物へ
老人の言う通り、ホームに長時間とどまるのは危険と判断した私はそこで取材を切り上げ、山手線で会社へ戻る事にした。
全力で助走して電車と並走し、開いたドアめがけて思いきりジャンプした。だが勢いが足りず、何とかドアにしがみつくのがやっとだった。猛スピードで走る電車になす術もなく引きずられながら、幼かった頃の記憶、家族や友人との楽しかった思い出などが次々と脳裏に蘇ってきた。
気付くと私は車内のシートにぐったりと座り、電車に揺られていた。どうやら誰かが引っ張り上げてくれたらしい。
あの老人、間違えて乗ったとか言っていたが…そもそもどうやって乗ったのだろうか?疲れ切った頭でそんな事をぼんやりと考えているうちに会社のある駅に近づいた。開いたドアから飛び降りホームに足をついた次の瞬間、制御不能となった私はホームを猛スピードで転がり、そのまま意識を失った。
まとめ
取材してみて、一周連結運行により山手線の混雑が劇的に緩和されている事がわかった。多少の不便や危険性はあるにせよリスクを上回るメリットがある。JR電鉄の今後の取り組みにも期待したい。
残念な事に、一部の心無いネットユーザーから「毎日数百人の負傷者が出ている」「中央線の運行に支障が出ている」などという根拠のない情報が発信されているが、国土交通省からそのような発表は一切されていない。こうしたフェイクニュースや陰謀論に惑わされないよう、各自がしっかりとした判断基準を持つ必要があるだろう。
この記事はフィクションです。実在する人物・団体・事象などとの関係は一切ありません。